地球環境変動に負けない
稲作技術を構築する
地球温暖化に伴う気象環境の変動が農作物に大きな影響を与えており、稲作においても高温や乾燥、低温ストレス等の様々な環境ストレスにより世界各地で甚大な被害が報告されています。
これまで当研究室では、登熟期の環境ストレスによる収量および品質低下要因について解析し、九州作出の高温耐性品種と高温感受性品種の特徴等を明らかにしております。現在は、エピジェネティックな変化を介した環境記憶という概念に着目して研究を進めており、高温登熟されたイネ種子は、DNAのメチル化を介して発芽遅延を引き起こすことを明らかにしました。
今後、温度、水分、肥料状態について環境記憶を利用した新しい稲作栽培技術を構築したいと考えています。また、イネの白米以外の有効利用について、アリューロン細胞分化機構を利用した油量米の開発や籾殻を用いた工業製品の開発など、白米、米糠、籾殻とイネ資源をフル活用し農産業に貢献すべく研究しております。
高収量・高品質な
麦類の安定生産へ向けて
品質の優れた麦類の増産が求められる中、穂発芽は極めて重要な農業形質です。 特に、登熟期から収穫期が多雨・多湿となりやすい日本のムギ栽培では、穂発芽被害が多発しています。これまで、穂発芽に関連が深い種子休眠・発芽制御機構の研究は、植物ホルモンによる制御に加え、ゲノム情報を駆使した種子休眠関連遺伝子の同定および機能解明が進められていますが、以前として穂発芽問題の解決には至っておらず、さらなる種子休眠・発芽制御機構の解明が不可欠です。
これまで、当研究室では活性酸素(ROS)による種子発芽制御について,主に植物ホルモンとの関連について調査し、これまでの包括的な理解であるジベレリン(GA)とアブシジン酸(ABA)による種子発芽制御において、活性酸素という新しい制御因子の役割(ABA-ROS-GA cycle)を明らかにしています。
現在、活性酸素シグナル下で働く発芽制御因子(Reactive oxygen species Responsive gene for seed Germination; RRG)について解析中です。また、C/Nバランスによる子実タンパク質の高蓄積に関する研究や小穂粒数の改善に関する研究など、世界の麦類生産に貢献すべく日夜研究に励んでいます。
大豆の収量・品質の向上を図る
食料だけでなく飼料や油料といった用途でも使用され、世界的に需要の高いダイズの収量および品質向上を目的に研究を進めています。収量に直結する開花・結莢制御機構の解明や粒重増加に繋がる莢の成長制御機構の解明を行っています。開花・結莢制御機構の解明では作物の成長制御を遺伝子発現量の積算値から考察するという新しい概念に着目し、これまで質的な評価をされてきた遺伝子について、積算値による量的な評価を考慮することにより、シンク形成における新たな機能を持つ遺伝子の探索を試みています。
また、ダイズは莢や茎葉が全て同時に枯れる一斉登熟性を持つ機械収穫に適した作物ですが、環境ストレスや病虫害等により、莢は成熟するが茎葉が枯れず青々と残る莢先熟が発生してしまいます。
現在、植物ホルモン等の物質の移動に着目し、詳細な莢先熟発生機構を明らかにすることで子実品質の向上へ繋げたいと考えています。さらに、地球環境変動に伴うゲリラ豪雨等による短期間の湛水を想定し、湿害応答の詳細な解析による湿害対策に関する栽培技術の構築についても研究しています。
超乾燥耐性作物ササゲのなぜ?を知る
アフリカの半乾燥地域を起源に持つササゲ (Vigna unguiculata L. Walp) は、他の農作物に比べて極めて乾燥に強いマメ科作物です。ササゲの乾燥耐性機構として、葉における早期の気孔閉鎖が考えられています。当研究室では、気孔閉鎖に関与する植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)に着目し、ササゲのABA生合成経路を詳細に解析した結果、葉における早期の気孔閉鎖には、乾燥ストレス後の根における速やかなABA合成が関与していることを明らかにしました。加えて、栄養成長期のササゲが乾燥ストレス後の再潅水により落葉することを見出し、乾燥ストレス後の地上部と地下部の連絡により制御されていることを明らかにしました。
本機構は、乾燥ストレス後の水利用において生理的活性のない葉を選択的に脱離させ、限られた水資源を効率的に成長に利用するという、ササゲの乾燥適応戦略の一つであると考えています。さらに現在は、乾燥ストレスによる地上部と地下部の連絡に着目し、ササゲの超乾燥耐性を利用した乾燥耐性農作物の作出を試みています。
ヤムイモ塊茎の
肥大・品質を司る“役者”を探る
地下部と地上部に塊茎を形成して栄養繁殖するというユニークな繁殖様式をとるヤムイモにおいて、塊茎肥大を司る主因子は何なのだろうか。これまでの研究から、「地下のイモは地上(葉)の環境」によって、また「地上のイモは地下(根)の環境」によって、形成と肥大が巧妙に制御されていることが明らかとなってきました。今後、これら地上部-地下部の連絡を介した塊茎形成・肥大メカニズムの解明を図ることで、栽培・育種への応用につながる基盤的知見の獲得を目指しています。
一方、ヤムイモには、ジオスゲニンをはじめ複数の健康増進物質が含まれることが明らかとなり、機能性食品としての利用が期待されています。現在、塊茎肥大ステージやポストハーベストにおける塊茎成分等の解析を行うことで、酸化的褐変機構の解明を進めています。
その他、機能性物質の蓄積に関して、品種間差異や高蓄積を可能とする栽培環境の探索に加え、放射線を用いたダイジョ突然変異系統の作出を行っており、高収量・高品質な有望系統の選抜と主要制御因子の同定を試みています。